スケボーゲームに学ぶ、フィジカルに直結するUXデザイン

この記事は、クリエイティブコミュニティDISTが主催するイベント「ゲームから学ぶUI/UX Ⅴ」で、著者が発表予定だった内容になります。

よいUI/UXを追求してきた先駆者であるゲームから学ぶため、各スピーカーが特に優れていると考えるゲームタイトルを持ち寄り、そのよさを語り合います。メディアを横断した体験を通して、Webの向上に繋げましょう。

DIST.36

イントロ

ゲームをプレイしていて、自分の操作するキャラクターが何らかのダメージを受けたとき、つい「痛て!!」なんて言ってしまった経験はありませんか?

自分の操作するキャラクターが何らかのダメージを受けたとき、つい「痛て!!」なんて言ってしまった経験はありませんか?

ちなみに僕はあります。

皆さんの操作するキャラクターは、フルダイブ型VRデバイスでもない限り、画面の中のヴァーチャルな存在に過ぎません。しかし我々は、ゲームをプレイしながら、ときに自分の肉体と相互に影響を与え合っているような感覚を得ることがあります

今日はそんなお話をしてみたいと思います。

スケートボードについて

今回僕がご紹介するのは、スケートボードを題材にした3つのゲームシリーズです。

スケートボードは、最近だとオリンピック種目になったり、日本人選手の活躍により、割と一般化してきている印象ですが、街中にあるものを利用してスケートボードをするという『ストリート・スタイル』であったり、音楽と融合したカルチャーとしてのスケートボードは、日本ではまだ馴染みが少ないかもしれません。

(もちろん、場所によってルールを守ってスケボーをする、というのは大前提です)

『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』

そんなスケートボードですが、ゲームとしての歴史は意外と古く、スケボーゲームの原点ともいうべき『トニー・ホーク プロ・スケーター』というシリーズは、1999年に最初のタイトルがPlayStationで発売され、その後いろいろなハードでシリーズ化されています。

その『トニー・ホーク プロ・スケーター』シリーズから、シリーズ20周年を記念してナンバリングの1と2をリマスターした『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』をご紹介します。

© 2020 Activision Publishing Inc.

このシリーズは、タイトルに名前を冠している「トニー・ホーク」という伝説的なプロスケーターが監修したゲームで、それ以降のスケボーゲームに多大な影響を与えている存在と言えます。

ゲーム内容としては、プレイヤーは、90年代を代表する伝説級のプロスケーターたちに成り切って、スケートパークやストリートを自由に滑走し、トリックコンボを決めまくる、という極めてシンプルなものになります。

さらにそれを、90年代の胸熱なメタルやパンク系のサントラが盛り上げています。

オーソドックスなゲームシステム

操作体系としては、プレイヤーは左アナログスティックで自由にターンしてコース内を滑走し、ワンボタンでオーリーという基本のジャンプトリックを繰り出し、さらに方向キーとボタンを組み合わせて様々なトリックに派生することができます。

© 2020 Activision Publishing Inc.

そして、連続してトリックを成功するとコンボになって高得点を狙うという、とっつきやすいオーソドックスなゲームシステムになっています。

実在のプロスケーターが登場し、物理法則に則った世界観で、トリックが決まったときの着地の音や、レールを滑るときの金属の擦れる音など、独特の心地よさがあります。

その代わり、ミスってこけたときの痛そうな感じとかも思わず声が出てしまいそうなこともあります。

もちろんゲーム内でできたトリックが現実でもできるかというとそうではありませんが、オリジナル版が発売された当時も、トニー・ホークに憧れるキッズたちは、ゲーム内で当時流行りのミュージックを流しながら、憧れのプロスケーターになって、鬼ヤバなトリックをビッタビタに決めていたことでしょう。

そして続編ではプロを目指すストーリーモードなども搭載されたりして、ヴァーチャルの中でも確かにカルチャーとしてのスケートボードを体験できるゲームになっています。

『Skate 3』

「トニー・ホーク プロ・スケーター」がカルチャーとしてのスケボー体験を産み出したシリーズであるならば、フィジカルなスケボー体験を発明したのが、この『Skate』シリーズです。

© 2022 Electronic Arts Inc.

このシリーズは、数としてはそこまで出ていませんが、スケーター界隈でもある意味伝説級に記憶に残るゲームになっています。

リアルとヴァーチャルが融合した操作体系

その最大の特徴は、実際にスケボーをやったことがある人だけが分かる、リアルとヴァーチャルが融合した操作体系です。とはいえ、トリックのほとんどが足や体幹の動きで行うスケートボードを、指で操作するコントローラで本当に整合性がとれるのか疑問ですよね。

例えば、リアルでのスケボーは当たり前ですが自動では動かない乗り物なので、基本的には自分の足で地面を蹴って推進力を得る必要があります。これをプッシュと言います。

進行方向に対して左足を前に置くレギュラーポジションでは、通常右足でプッシュすることが多いです。

このゲームでは恐ろしいことに、右足のプッシュと左足のプッシュがそれぞれ別のボタンに割り当てられています。傍目からでは単に地面を蹴って進む動きでも、自分はレギュラースタンスだから右足でプッシュしよう、みたいなこだわりを持った再現が可能です。

そして、基本トリックである「オーリー」はどうなっているかというと、右アナログスティックを一旦下方向に入力し、その後上方向に弾くことで、オーリー、すなわちジャンプトリックの動きになります。

ゲーム内のオーリーの入力

ゲームでは最も簡単な基本トリックである「オーリー」は、実は現実のスケボーでは、最初に挫折する人も多いくらい習得が難しいトリックでもあります。

そもそも、足と板がくっついていないスケボーで、なぜ板と一緒にジャンプできるのかというと、まずスケートボードの板に乗った状態で、後ろの足で板を地面に向けて叩きつけることでテコの原理で板の前方が上に浮かびます。

次に、後ろ足で自分もジャンプしつつ前足で板を擦り上げて、跳ね返ってきた板を空中に引っ張り上げます。そして、空中で斜めになった板を前足で前方に向けて押し出すことで、板を水平にしつつ、板ごとジャンプするという動きになります。

実際のオーリーの原理

これをアナログスティックで再現したのが、先ほどのように「一旦下方向に入力して、上方向に弾く」、という操作になります。たったこれだけの動作ですが、体感的にはゲーム内でのオーリーの再現度が5割り増しくらいになったように感じました。

そして「キックフリップ」というトリックがあるのですが、これはオーリーをしながら板を縦方向に1回転させる技です。この技のゲーム上の入力はこのようになっています。

ゲーム内のキックフリップの入力

オーリーと変わらないじゃないか!と思いますよね?しかしよく見ると上方向に弾く向きが若干斜めになっています。

ここがポイントで、実際の動きでは、先ほどのオーリーの動きに加えて、最後に前足を進行方向外側に向けて斜めに蹴り抜くことで縦回転を生み出しています。

それがこのアナログスティックを微妙な斜め上方向に弾くという操作になっています。

このように、ゲーム内の多くの操作が、アナログスティックを効果的に使って、リアルでの肉体の動きを再現したものになっており、スケボー経験者は自分の肉体が記憶している感覚を、ヴァーチャルでも極めてリアルな体験として感じることができます。

しかし、このフィジカルな感覚再現に特化した操作方法は諸刃の剣であり、一部のプレイヤーはリアルな体験として好意的に捉える一方で、複雑化したマニアックな操作方法はゲーム難易度を著しく上げてしまい、とっつきにくい印象を与えてしまうことにもなりました…

『OlliOlli WORLD(オリオリワールド)』

最後に紹介する『OlliOlli』というシリーズから、最新作『OlliOlli WORLD(オリオリワールド)』では、トゥーン調のグラフィックからもわかるように、先の2つのシリーズのようなリアル路線ではなく、ギミックに富んだステージを決められたルートで走り、ド派手で心地よい演出でトリックを繋いでゴールを目指す、という中毒性のあるゲームスタイルになります。

©2021 Rollingmedia Limited.

アナログスティックを使った操作体系

操作体系としては『Skate』シリーズと同じく、アナログスティックをメインで使った操作体系となっていて、コマンド技のようにトリックを繋いでコンボにすることで高得点になっていきます。

©2021 Rollingmedia Limited.

プレイヤーはオートスクロールでコース内での自由度が低い反面、スピードの調整とトリックの入力に専念することができ、着地判定も甘めなので、『Skate』シリーズよりもとっつきやすく、簡単なトリックでとりあえずゴールを目指してもよし、限界までトリックを繋いでハイスコアを狙うもよし、という間口の広さを持っています。

僕も最初はまったり滑っていましたが、最終的に腱鞘炎になりそうなほどアナログスティックを駆使して、全てのトリックを繋げてゴールできたときには、リアルなスケボーで難しい技が成功したときのような達成感を得られました。

まとめ

ご紹介した3つのスケボーゲームは、同じジャンルでも全く異なるユーザー体験になっていたと思います。

共通しているのは、スケートボードに限らず、ゲームというジャンルは、フィジカルな体験を様々な手法でヴァーチャルな体験に置き換えてきたということ。言い換えると、ヴァーチャルから興味を持って自分の世界を広げたり、フィジカルな体験ができない人にも、それを疑似体験できる可能性を秘めたものでもあります。

我々クリエイティブに身を置く人間としては、画面の中は現実世界と完全に切り離された空間ではなく、ユーザーのフィジカルな体験と相互に影響を与え合うものと意識してみるのも良いのではないでしょうか。

おしまい。